森喜朗・公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会会長の発言に対する会長声明(2021.2.10)
2021年2月3日開催の公益財団法人日本オリンピック委員会の臨時評議会において、公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下、「東京2020組織委員会」という。)の会長を務める森喜朗氏は、スポーツ団体ガバナンスコード(スポーツ庁令和元年6月10日)が設定した女性理事の目標割合(40%以上)について、「女性がたくさん入っている理事会、理事会は時間がかかります。」、「(東京2020組織委員会の女性委員は)みんなわきまえておられる。」等と発言した。
翌4日に開かれた記者会見において、森氏は上記発言を撤回したが、記者との質疑応答において、根拠はないと自認しながら、「女性が多いと話が長い。」「数字にこだわると運営が難しくなることもある。」「(女性委員がわきまえている東京2020)組織委員会については、非常に円満にうまくいっている」等の認識を改めて示した。
森氏の発言には複数の問題がある。
まず、森氏の発言は、客観的な証拠に基づかず、「女性委員は、わきまえず、話が長い。」とステレオタイプ化し、女性を貶める点に問題がある。かかる発言が、性別による差別を禁止するオリンピック憲章や、ジェンダー平等の実現を目標の一つとする国連・持続可能な開発目標(SDGs)、男女平等を規定する日本国憲法14条等に抵触することは明らかである。
更に、森氏の発言は、体制側に「わきまえない」と評価される発言を遮断し、会議での積極的な議論や、その結果としての会議の長時間化を回避すべきものとする点に問題がある。権限行使及びその監督が適切に行われるためには、意思決定過程において多様な意見の反映が必要であり、意思決定機関の多様性、たとえば外部人材や女性の割合をあげることは、国内外で広く推進されつつあるガバナンスの根本原理である。多忙なメンバーが集まる会議体において、例えば事前説明、事前質問及び事前回答の実施、書面報告の活用等、会議の効率化を図る工夫は可能であり、現に意思決定機関の構成員の多様性を実現しつつある上場企業では多く採用されつつあり、効率的な会議と、多様な構成員の自由闊達な意見表明とは両立しうるものである。森氏の発言は、会議出席者の発言を萎縮させ、ひいては活発な議論を遮断するものであり、パラリンピックも開催する組織団体が少数者の発言を疎んじ「わきまえた発言のみが許される長時間化しない会議」を是とする価値観にあるとすればその存在意義に関わる問題である。
森氏の発言に強く抗議すると共に、公益財団法人日本オリンピック委員会、東京2020組織委員会他、各種スポーツ団体における組織運営の見直し、スポーツ団体ガバナンスコードの順守を求める。
2021年(令和3年)2月10日 日本女性法律家協会 会長 佐貫葉子