国際刑事裁判所(ICC)の独立性確保、 そして法の支配堅持を求める会長声明

1.ICCの役割

国際刑事裁判所(ICC)は、国際社会における重大な犯罪の防止に貢献するために設置された国際裁判所である。その基礎となる「ICCに関するローマ規程」(以下「ICC規程」という)は1998年に採択され、2002年に発効し、これによってICCが発足した。

ICCが管轄する犯罪は、ジェノサイド、人道に対する罪、戦争犯罪及び侵略犯罪である。これら犯罪の処罰については国家毎の刑事裁判権では手が届き難く、それを補完する国際刑事裁判所が設置されたことは歴史的に大きな意義がある。

さらに、ICC規程は、国家元首や政府の一員など公的資格を有する者であっても区別なく全ての者に等しく適用される旨を明記している(27条 )。ジェノサイド、人道に対する罪、戦争犯罪及び侵略犯罪が国家元首やこれに準じる地位にある者の意思によって行われた場合に責任を問いきれずに終わってしまうことが多かったため、こういった事態に陥らぬことこそ重大犯罪の防止に重要であるとして導入された。

ICC規程はレイプや強制妊娠を人道に対する罪に含め、その後に形成されるICCの判例は、国際法におけるジェンダーに基づく暴力の概念を明確化するに当たって大きな役割を果たした。ICCは2014年にはジェンダー犯罪の効果的な捜査及び訴追を目的とした政策方針を公表しており(2023年に改訂)、世界各国でジェンダーに基づく犯罪の捜査に大きな影響を与えている。

 

2.日本の貢献

日本は、ICC規程の起草過程に積極的に関与し、2007年にはICC規程に加入して締約国となっている。そして現在、ICCに対する分担金拠出国として、国際社会における「法の支配」確立に貢献している(ICCの2024予算では125加盟国・地域でトップの分担金約37億円を拠出)。2024年3月には、女性法曹である赤根智子氏が日本人として初めてICCの所長に就任した。

このICCと並ぶ国際機関として、国際紛争の解決および勧告的意見の発出を行う国際司法裁判所(ICJ:1945年設立)があり、2025年3月には、ICJの所長に日本人である岩澤雄司氏が選出されている。

ICCとICJという二つの国際裁判所の長に日本人が選出されたという事実は、日本の法律家が世界から信頼されている証であり、国際社会の「法の支配」確立に向けた努力が評価されているのである。

 

3.国際情勢(ロシア・アメリカの対応)

ここで国際情勢を見るに、米国、ロシア、イスラエルなどの国々はICC規程に加入しておらず、ICCに対してその存在意義を没却しかねない姿勢をとっている。

ICCは、2023年3月、ウクライナ侵攻時の戦争犯罪の疑いでロシアのプーチン大統領に逮捕状を発付したが、これに対しロシアは赤根智子判事を指名手配した。

また、ICCは、2024年11月に、パレスチナ自治区ガザへの攻撃をめぐりイスラエルのネタニヤフ首相やガザを実効支配するハマス指導者らに逮捕状を発付したが、トランプ政権は2025年2月6日、捜査に関わったICC関係者に制裁を科す大統領令に署名した。

 

4.国際情勢(3.に対する声明等)

こういった状況下、国際社会も声を挙げている。

カナダ、フランス、ドイツ、英国などの79カ国・地域は、2025年2月7日、国際法と人権の尊重を中核とする法の支配においてICCが担っている役割を示し、上記制裁措置をICCの独立性を侵害するものとして非難する共同声明を発出した。

日本政府が法の支配の重要性を唱えICCを支持してきたことからすれば、ICCが責務を遂行できるよう、「法の支配」を確立すべく努力している人々を支持・支援し続けることが求められる。

 

5.日本女性法律家協会とICC

日本女性法律家協会は、1950年に設立された 女性の弁護士、裁判官、検察官、法律学者で構成される団体であり、国際女性法律家協会の日本支部として、これまでに国連日本代表も送り出している。

2018年には当会会員ら15名がICC本部(ハーグ)を訪問し、同胞の女性法曹である赤根智子判事が所長として任務を遂行する姿を目の当たりにして、法治社会の発展や女性の地位向上への思いを強くした。

 

6.結語

当協会は、ICCの取り組みを支持し協力していくことを表明するとともに、日本政府に対して、ICCの独立性を脅かす圧力に反対し、法の支配の確保を求めるべく国際社会に働きかけるよう、求めるものである。                             以 上

2025年4月28日

日本女性法律家協会

会長 横溝 久美