「『第6次男女共同参画基本計画策定に当たっての基本的な考え方(素案)』に関するパブコメ」への意見提出について

「選択的夫婦別姓制度研究会」座長 犬伏由子

副座長 福崎聖子

2025年8月26日、『第6次男女共同参画基本計画策定に当たっての基本的な考え方(素案)』に関して、パブコメの募集が行われました(2025年9月15日まで)。

当協会は「選択的夫婦別姓」を実現するべく、長年にわたり、会長名で意見書、要望書、会長声明、及び、2020年以降には、政府等への要望書の提出等の活動を行ってまいりましたが、上記「素案」(https://www.gender.go.jp/kaigi/senmon/6th/pdf/master_02-10.pdf、「第10分野 男女共同参画の視点に立った各種制度等の整備」(「2)具体的取り組み」「イ 家族に関する法制の整備等」)に含まれていた内容は、「選択的夫婦別姓の導入」を先送りすることを意味しています。

当協会「選択的夫婦別姓制度研究会」において、意見のとりまとめを行い、締め切り期日が迫っていたことから、オンライン入力にて、下記の「意見」を送信いたしました。

(なお、オンライン入力フォーム上では、1回の送信につき3000字(1項目1000字×3個)までの入力となっていたことから、字数を3000字以内に調整しました。)

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『日本女性法律家協会「選択的夫婦別姓制度研究会」意見』

 

1.(2)イ 家族に関する法制の整備等について

⑴ 『選択的夫婦別姓制度の導入が望ましい』と明記すべきである。

1996年「民法改正案要綱」に含まれていた「選択的夫婦別姓制度」について、2001年10月に「男女共同参画会議基本問題専門調査会」は「選択的夫婦別氏制度の導入が望ましい」との中間まとめを出している。しかし、それ以降の「男女共同参画基本計画」において、選択的夫婦別姓の実現は、引き続きの検討対象として、先送りされてきた。これ以上、選択的夫婦別姓に向けての民法改正を先送りすべきではなく、少なくとも2001年に立ち返り、「選択的夫婦別姓制度の導入が望ましい」と明記すべきである。

⑵ 民法750条「夫婦同氏強制」の憲法上の問題点

現行の夫婦同氏強制制度は、夫婦のいずれも氏を変えずに婚姻することができるという選択肢を認めていない。

なぜ、婚姻をするためには氏を変えなければならないのか、特に女性が婚姻するにあたり、婚姻か改姓かの二者択一を迫られること自体が合理性を欠いている。また、名前という個々人の人格ないしプライバシーに深くかかわる事項について、その変更を国家が強制することは、人格権ないしプライバシー権の侵害に当たる。婚姻の際に、自分の氏を名乗り続けるか否かは、自らの意思のみで選択できて然るべきである。さらに、一方当事者は氏を維持できるにも関わらず、もう一方の当事者が必ず自己の氏を失う点で、両者間に必ず不平等が生じる。以上のように民法750条には憲法上の問題が多々ある。

⑶ 国際社会との関係

国連の女性差別撤廃委員会は、2003年、2009年、2016年に続き、2024年10月に、民法750条の改正を求める4回目の勧告をした。自由権規約委員会も、2022年11月に同様の勧告をしている。また、米国国務省の国別人権報告書においても、毎年、夫婦同氏強制が人権侵害である旨の指摘を受け続けている。

国際的にみれば、それぞれの配偶者が相手方の同意を要せずに自己の意思のみに基づいて婚姻後の氏を選択することができず、殆どの場合に妻に改姓を強いる夫婦同氏強制制度は、明らかに差別的制度であり、「2.①」で述べるとおり通称使用を拡大しても差別は解消されず、 夫婦別姓の選択肢が導入されなければ、人権侵害のそしりは免れない。

⑷ 選択的夫婦別姓実現を求める声

上記様々な問題点を踏まえ、これらを根本的に解決すべく選択的夫婦別姓実現を求めて、国民各層からの声が高まっている。例えば、2024年に共同通信社が実施した世論調査(調査期間10月12日~13日)によれば、「選択的夫婦別姓の導入」に賛成した者は67%、反対した者は22%、その他は11%であった。2024年には、日弁連から、選択的夫婦別姓の実現を求める会長談話及び決議が出されている。

⑸ 小括

以上を踏まえ、具体的には、以下のとおり修正するのが相当である。

2.①の旧姓の通称使用の拡大等について

「旧姓の通称使用の拡大やその周知に取り組む」とあるが、求めているのは夫婦のいずれもが、選択的に、現在の氏を変えることなく婚姻することができるようになることであり、旧姓の通称使用の拡大ではない。この問題の本質は、上述のとおり個人の氏の変更を国家が強制するという人格権ないしプライバシー権の侵害と不平等である。よって、これらが放置されたままでは、根本的・抜本的解決にはならない。

また、現実に、通称を使用する女性がビザ取得や海外でのパスポートの使用、論文の発表、役員就任等、ビジネスや学術研究の場面で大きな支障を来した事例も多数報告されている。これに加え、通称使用の法制化は、マネーロンダリング防止の観点からダブルネームの使用を禁ずる世界的潮流にも、明らかに逆行している。

さらに、選択的夫婦別姓制度導入後も、改姓を選択した人がなお旧姓を使用することは想定されるため、同制度と旧姓の通称使用は、二者択一ではなく両立する制度である。

ところが、原案は、旧姓の通称使用の拡大を①として先に記載し、前者により後者の問題も解決されるかのような誤った印象を与えている。

これは、明らかな誤導であるから、①と②の順番を入れ替え、②として通称使用の拡大等については、以下のとおり修正すべきである。

「② 選択的夫婦別姓制度の導入後であっても、改姓を選択した人が旧姓の使用を継続することは想定されることから、国・地方一体となった行政のデジタル化・各府省間のシステムの統一的な運用などにより、婚姻により改姓を選択した人が不便さや不利益を感じることのないよう、引き続き旧姓の通称使用の拡大やその周知に取り組む。」

3.②の後半部分について

・「戸籍制度と一体となった夫婦同氏制度の歴史」とあるが、現行の戸籍に氏の記載を加えるだけで、選択的夫婦別姓制度は実現可能である。現に、法務省もそのように考えており、「戸籍制度と一体となった選択的夫婦別姓制度」なのである。あたかも戸籍制度を廃止しなければ実現できないかのような印象を与える原案の記載は、明らかな誤導であり、削除されるべきである。

・「同氏である方が家族の一体感がある」というのは、一部の人々の感想・思想に過ぎない。そういった感想・思想は否定するものではないが、他方で、そうは考えない人にまで国家がその思想を強制することは、許されない。

・「こどもへの影響や最善の利益」について、婚姻に当たって氏の変更を強制されないことは、「親になる以前の個人の人権の問題」であり、こどもへの影響等は、「こどもへの差別の問題」である。こどもへの差別の可能性を理由に同氏を強制するならば、差別の可能性を基盤にした人権侵害の容認となる。もし差別的事象が生じる懸念があるのならば、そういった事象が生じないよう、別途、検討、尽力するのが本来の在り方である。

・「国民各層の意見や国会における議論の動向を注視しながら、司法の判断も踏まえ」について、この問題は、あくまで人権の問題であり、多数決で決めるべき問題ではない。また、司法の判断を待つまでもなく、行政府・立法府として、指針を示して実現すべき事柄である。

以上から、②の「そのような状況も踏まえた上で、夫婦の氏に関する具体的な制度の在り方に関し、戸籍制度と一体となった夫婦同氏制度の歴史を踏まえ、また家族の一体感、こどもへの影響や最善の利益を考える視点も十分に考慮し、国民各層の意見や国会における議論の動向を注視しながら、司法の判断も踏まえ、更なる検討を進める。」との部分は全て削除し、1の趣旨を勘案して、以下のとおり記載するのが相当である。

「① 婚姻後も、(中略)意見がある。このような状況を踏まえ、家族形態の変化及び多様化、国民意識の動向、女性差別撤廃委員会の勧告、国際社会における人権状況等も考慮すれば、選択的夫婦別姓制度を導入することが望ましい。」